居酒屋を出ると、ひんやりとした春の夜風が頬を撫でた。
その心地良さに、すっかり酔ってしまっていることがよくわかる。
次の店に行くという明人と弘治と別れ、平良と良子はバス停に向かっていた。
「今日楽しかったなー。スタジオも居酒屋も」
いつもより陽気に、良子が言う。
アルコールのせいだけでなく、今日のいくつもの刺激的な出来事が、良子を酔わせていた。
「練習、退屈じゃない?」
平良が心配に思っていたことを問うと、
「全然!」
良子は力強く否定する。
そんな良子を見て、平良は思わず笑ってしまう。
「そっかそっか、よかった」
「そうだよ。ふふふ」
自分が笑われているのに気付かず、平良の笑顔を見てうれしくなった良子は、変な笑い方をしてしまう。
「酔ってるね」
からかうように言うのに、
「えへへ」
良子は尚も笑っている。
あまりに無防備な良子を、平良は少し危なっかしく思った。
できれば、自分のいないところでは、アルコールを飲んでほしくない、とも。