薄暗い会場には、既に数人の姿があった。


すぐ後に入ってきた人に習って、ロッカーにコートとバッグを押し込む。


身軽になり、以前よりゆっくりとその空間を眺めることができた。


誰もが高揚を隠せない表情で、開演を待っている。


所々で発せられる小さな熱が感じられて、興奮が伝わってくるようだ。


開演前にドリンクチケットを交換することにして、バーカウンターに置かれたメニューを見る。


前回はたいして目を通すこともなかったが、種類はさほど多くないようだ。


「オレンジジュース…」


言いかけたその時、


「まじ?酒飲もうよ。おれ、ジントニックね」


そう言ってカウンターにチケットを置く手が見えた。


良子が勢い良く振り返ると、切れ長の瞳が、ニコッと笑った。


「良子ちゃんは?」


薄暗い室内でもわかる金色の髪が、さらりと揺れる。


「平良君!」


平良に会えた喜びのあまり、良子の顔に大きな笑顔が咲く。


初めて会ったあの日以来、何度となく思い返した姿が実際にそこにあり、信じられない思いでじっと見入る。


記憶の中では美化させてしまいがちだが、目の前にいる平良は、良子の記憶の中よりもずっと格好良く見え、胸をドキドキと騒がせた。