指折り数えて迎えた、2月25日。
良子は、開場時間に合わせてライヴハウスを訪れた。
入り口の脇にたまって話している人達の横をすり抜けて、地下への階段を下りる。
受付は以前に初めてここを訪れた時と同じ、ニットキャップの男だ。
「こんばんは」
覚えているはずはないだろうと思っていたけれど、男は親しみを込めた笑顔で迎えてくれた。
「水口良子っていいます。ゲストに入れてもらってると思うんですけど…」
慣れない言葉を使ってそう言うと、男はカウンターの向こう側で紙をめくる。
「ミズグチ…リョウコ…あ、“良子・Byタイラ”、これだね」
その言葉に、良子はホッと胸をなで下ろす。
ゲストに入れておくという平良の言葉を信じていないわけではなかったけれど、忘れられている可能性も充分考えられた。
良子は、以前のライヴを聞いて興奮して声をかけてきた一ファンに過ぎなかった。
「キミ、タイラ君のカノジョ?」
男がニヤッと笑う。
「ま、まさか!違いますっ!」
大慌てで手を横に振ると、男は豪快に笑い声を上げる。
「アハハ!そんな必死こいて否定したらタイラ君が泣くよ」
そう言いながら渡してくれたドリンクチケットを受け取り、重い扉を押し開けた。