由香里さんはそのまま泣き崩れた。
周りのお客さんが見ているのがわかる。
私はただ、ただ、静かに涙を流した。
疾風は泣くのを堪えながら、席を立ち、由香里さんに目線を合わせた。
そして、由香里さんの顎を持ち上げる。
パアーンッ
店中に、その音が響く。
いつしか由香里さんが疾風にしたビンタよりも重い音。
疾風が、由香里さんの頬を叩いた。
「沙希は、優斗が病気なんて知らなかったんだよ!!」
「えっ・・・」
疾風の言葉に由香里さんはこっちを見る。
「普通のことをしたいって願って何が悪い!?『彼氏に迎えにきてほしい』『手を繋いでデートしたい』って!」
「ヒック・・・」
疾風の言葉に私は声をあげる。
「全然いいじゃねぇかよ!それを叶えようと思った優斗を、俺は尊敬した!」
もう、いいよ。
充分だから。そう言いたいのに言葉が出ない。

