「は?」 聞こえなかったのか、もう一度言えと言う声に、今度はさっきよりも僅かに大きな声で言う。 (これでハエの鳴く声くらいにはなれただろうか。) 「離して、って言ってんの。」 怖くて顔は見れなかった。 きゅっと目を瞑って、自分だけの世界に浸る。 大丈夫、大丈夫。 ここにはいない。 私しかいない。 私をかき乱すようなものは、ここにはいない。 自己暗示のように脳裏で反芻させながら、ただただきゅっと目を瞑る。