テーブルの上の食物は全て片付いた。
腹は張ったが酷い味だった。
土を食べに外へ出るべきだったと今更ながら後悔した。


 「哀れな」
目を伏せた彼は言う。
「構わない」
何だって、かまわない。
「わたしは植物に生まれたかった」
何千年と生きる大樹に。
そうすれば人間でいるよりも遥かに長く彼と生き、彼から直接愛を受け取って生きていけたのだから。
「それは困る。君がもし植物だったとしたら、こうして言葉を交わすことなどできなかったのだから」
「そんなものか」
「そんなものだ。納得したまえ」
「そうしよう」


 ふと見たわたしの指はささくれていた。
いつもの癖でそれを剥く。
「君、やめたまえ」
いつもよりも強い口調。
やめるものか。
「自傷癖まであるのかね君は」
こんなもの、自傷の内に入りはしない。
「やめろ、と言ったのだ」
血の滲んだ指先を彼が握る。
冷たい右手と熱い左手。
両手の温度が合わさる場所に、わたしの手がある。


 彼はそれから、わたしがまともな判断力を取り戻すまで手を握っていた。
食べているわけでもないのに幸せで、埋まっているときより安心した。