校舎の中には人の影はなく、静まり返っており青と乙姫の足音だけが響く

職員室は二階にあるらしく、階段を二人揃って上るが、それでも人と擦れ違うことはなかった

「人がいないけど…?」

「まだ早いからな。」

青は視線を前に向けたまま答えると、ある扉の前で立ち止まった

上に付いている札に“職員室”と記されていることから目的地に着いたことが分かる

しかし、青は足を踏み出そうとはしない。そのことに疑問符を浮かべて大きな背を見遣るとその背は徐にこちらを振り返った

「これから会う奴には注意しろ。」

いいな?――そう言うとこちらの返事を待たずに扉を開いた

この先にいる人物に不安を抱くが彼も傍に居てくれると思い、黙って後に続く

室内に何人か居る教師たちの視線が注がれ、一部ではこそこそと何やら噂しているようで乙姫にとっては居心地の悪いものでしかない

“あれが神薙の……”

“摎の花嫁か”

そんなことがちょくちょく耳に入ってくる

恐い―――まるで値踏みだ。教師が生徒の“価値”を計っている

そんなことを思うと無意識に目の前の唯一の味方の袖を握っていた

突然訪れた袖の重みに青は驚きつつ、振り返った先の乙姫の様子にため息をついてそのまま歩を進めた

これだから人間は―――嫌になる

それは乙姫にではなく、周りの好奇な視線を送る人間達に向ける思いである