日が昇り、カーテンの隙間から差し込む日の光に眩しそうにしながら、ゆっくりとした動作でベッドから上体を起こす。

冬の寒さに布団に潜りたくなる衝動に駆られながらも右足を床につける。

とにかく今の眠気を覚ますためにも顔を洗おうと思い乙姫は凍える体を摩りながら洗面所に向かったのだった。




鏡に映った自分の顔を見ると目が若干腫れていた。
『ああ、昨日泣いたからだ』と昨日の出来事が甦る

バシャっと水で顔を洗う。
水は冬のせいで凍るほど冷たかった。
だがそのおかげで目が冴えてくる。

「……よし」

目が冴えたところで着替えをさっさと済まし朝食を作り始める。

母親は入院、父親は既に他界している乙姫はバイトをしながら一人暮らしをしている。
そのため乙姫は家事のほとんどが出来るようになった。

「いただきます」

静かなリビングに手を合わせた音と声が響き渡る。
テレビもあるが今日は何となくつける気がしなかった。

乙姫は静かな空間でも気にせずに『もうちょっと塩胡椒を効かせたほうがよかったかな』などと自分の料理に対し評価をつけながら朝食を口に運んでいった。

昔はこの静かな世界が嫌いだった寂しくて悲しくていつも泣いていた。

けれど今はもう涙することは無くなってしまった。
感情が死んでしまったんじゃないかと思っていたのだが、昨日…よりによって彼女の前でその感情は溢れてしまったのだ。

「暗い!」

思考回路を巡らせれば巡らせるほど暗く重いほうへ行ってしまう自分を叱咤するようにその一言を発した。