いざ、蔵の前まで来てみるとそこには厳重につけられた南京錠が扉を固定していた。

先程まで何故その可能性を考えていなかったのか自分で自分に聞いてみたい――などと落胆しながらため息を吐いた

蔵全体を見回してみるが、扉以外にあるのはかなり上に取り付けられている子供がやっと入れるような小さな窓だけだ。
高さ的にも、そこからの侵入は無理だ。


再び南京錠に視線を向ける――。

大きめのそれは、がっちりと締まっている。

しばらく、見つめていると乙姫はハッと何かを思い出したかのようにポケットに手を入れ、探ること数秒間――――目的のものに触れ、それを取り出す

握る手に収まっているのは細長い黒のヘアピン

開けられないだろうか―――今なら泥棒か何かの気持ちが分かる気がした

開くのではないか、という淡い期待を胸に、南京錠の鍵穴に伸ばしたピンを差し込もうと、南京錠に触れた瞬間に―――ガチャッとそれは音をたてた

それを目を見開いて見つめる。
しっかりと締まっていたはずの錠はあっさりと開いている

今、鍵穴に触れる前に開いた――?

信じられない、と手にある南京錠を見ても、何かあるわけでもなく、それはただの“鍵”でしかなかった

“ギギ”という音に誘われて視線を上げると扉がその重い口を開かせていた。

それはまるで、乙姫を誘い込んでいるようだった―――。