「ふう……」


最後の食器を洗い終え一息吐く。

結局、この村に居るしかない私が頼れるのは此処だけ。

どんな理由があるにせよ、我が儘ばかりは言えない。

花嫁になることは免れた―――とりあえずは、だが……。



時計を確認してみると、九時半―――本来ならば学生である自分がこんな時間に家に居ることはない。

台所から出たとき、先程は見向きもしなかった電話機に気づいた。


織姫に連絡が出来るかもしれない―――そう思えば次の行動は速かった。受話器を手に取り、いつ連絡があってもいいように覚えていた病院の番号をひとつひとつ押していく。


少しの電子音の後、聞こえてきたのは受付の声ではなく、“現在、この番号は使われておりません”という冷たい声だった。

「使われて…ない?」

そんなはずはない――あの大きな病院がなくなるはずもなければ、番号を変えることもないはずだ。

もう一度、番号を確実に押していく。先程のことは自分の押し間違えであることを願いながら―――。


しかし、電話口から聞こえてきたのは先程と同じ無機的な声音。

「どうして………」

力が抜けた手から滑り落ちそうになる受話器。

しばらく、その場から動くことが出来なかった―――