神隠しにあって此処に来た自分には外の世界に帰るべき場所があり、何より唯一の肉親である母がいる。

記憶があろうがなかろうが大切な母だ。
なるべく近くにいたい――。

その上、何も告げることなく今自分は此処に居る。恐らく、世間では自分も“連続神隠し事件”の被害者として扱われているのだろう――。

心優しく心配性の彼女のことだ。心配しているに違いない。早く帰らなくては―――。


逸らしていた視線を華紅夜へ戻し一呼吸おいた後つぐんでいた口を開いた。


「母が…きっと心配しています。」


母親としてではないかもしれない。それでも彼女なら心配する――そんな確信があった。


「織姫が…?」


華紅夜の質問に違和感を感じたが乙姫は小さく頷いた。


「織姫は…」


何かを言いかけ華紅夜は言葉を止めた。その表情は何故か悲しいものに感じられた。

先程までの有無を言わせないような厳しい雰囲気が今は感じられず、乙姫は華紅夜のそんな反応にわずかに動揺する。

「あの…」

何を言うつもりだったのか自分でも分からないが何かを発せずにはいられなかった。

乙姫に声をかけられ、華紅夜ははっと気づいたように言葉を続けた。

「織姫は私と約束をしていたの――――。」


華紅夜の声が響いた。