徐々に広がる視界
仄かな光と見慣れぬ天井


微かに頭を過ぎる昨日の出来事。此処が何処だか理解したときには意識も覚醒していた。

上体をゆっくりと起こし、柱にかけてある時計を見た。
針が指す時刻は午前六時――。いつもならまだ寝ている時刻だが、早過ぎる時間帯というわけではない。

障子から透ける日の光の前に立ち、障子とその奥の窓をそっと開く。
徐々に明るくなって来ている空と共に、昨日自分が居た森が視界に飛び込んできた。都会では見ることなど無かった自然ははどことなく神秘さを放っているように感じられた。

突如、強めの風が吹き、その冷たさに早々に窓を閉めた。



“ふう…”と一息吐き出し、着替えようと、着ているシャツに手をかける。
そのシャツは昨晩、虎太郎に貸してもらったものである。

乙姫は制服でいいと遠慮したのだが、虎太郎の眩しいほどの笑顔を見ていると断ることのほうが悪いような気がして言葉に甘えさせてもらったのだった。

枕元に畳んで置いてある自分の制服に袖を通し、着ていたシャツを丁寧に畳んでいく。


これからどうすべきか部屋の中央に佇み、しばし考える。あまり勝手に出歩くのは気が引けるがだからといってこのままじっと何もしないというのも気が引けてしまう。


数分間思案した後、とりあえず一階に行ってみることにした。

誰かが起床していれば何か出来ることもあるかもしれない――そう思い立ち、布団をサッと畳み、押し入れにしまい、部屋をあとにした。