独特の臭いと特有の静けさが広がる一室に少女は花を持って入ってきた

「こんにちは。織姫(おりひ)さん」

織姫と呼ばれた30代後半から40代前半くらいの女性は白いベッドに体を預け座っていた

「こんにちは。乙姫(おとひ)ちゃん」

彼女の笑顔はこの場にあるのが不思議なくらい美しく楽しげだった

「織姫さん、なんだか嬉しそうですね」

少女がそう問い掛けると彼女は『ふふっ』と笑って少女に向かって手招きをした

不思議に思いながらもベッドの隣まで歩みを進める

「誕生日おめでとう」

そう言って彼女は少女の首に首飾りをつけた

首飾りを手に取ってみる
その首飾りは碧の石で高価そうなものだった

「こ…れ…」

少女は驚きのあまり声を上手く発することができない

そして込み上げる熱いものを堪えるように俯く

「私のお下がりで悪いんだけど、乙姫ちゃんに受け取って欲しいの」

本当に申し訳なさそうに言う彼女に否定の言葉を紡ごうと顔をバッと上げるとそこには優しく微笑む彼女がいた

その笑顔を見て堪えていたものが溢れ出る

「そ、そんなにお下がり嫌だった?そうよねっ!若いんだもの新しいほうがいいわよね!?」

何を勘違いしたのか彼女は手をあわあわと動かしながら焦り出す

外見の大人っぽさとは掛け離れた彼女の動作を可愛いと思ってしまうのは彼女の持つ雰囲気のせいでもあるだろう

「ありがとうございます。すごく…嬉しいです」

少女の言葉と止まった涙に安心したのか『ほう』と息を吐きながら“よかった”と嬉しそうに笑った

「家の人にも沢山祝ってもらってね?」

その言葉を聞いた少女の顔は今までの穏やかな雰囲気が無くなり暗くなった

「そ…ですね……。そうだ、花瓶に水入れてきますね」

顔を伏せたまま花瓶を持って少女は部屋を出ていった

部屋にはひとり首を傾げる織姫がいた





部屋の扉を閉め俯く少女

少女の名前は神薙 乙姫

そしてさきほどまで一緒にいた女性の名前は





―神薙 織姫





少女の実の母親である