居間に入ると、机には純和食の味噌汁や煮物などの料理が並べられていた。
たった今青年が持ってきたものが最後だったのだろう。それを机に並べると青はさっさと座布団に座った。
食事の並べ方から乙姫は虎太郎の隣、青はその正面という位置関係になっている。
そこで気づく、一人分足りないことに――――。
「華紅夜さんの分は……」
自分の祖母なのだが、今日初めて会った人を“おばあちゃん”などと呼べるはずもなく名前で呼ぶ。
「華紅夜様は自室で食べている。」
乙姫の疑問に答えたのは意外にも青だった。それに妙な感動を覚える。
因みに、虎太郎は目の前の料理に夢中になっている。
「そう…なんですか。」
年は離れていないはず…なのだが、目の前の青年は酷く大人びて見えるため思わず敬語になってしまう。
溜息を吐きたい思いを押さえ魚の煮物を口に運ぶ。
「おいしい…」
ほど好い味付け。
なんというか―――意外だった。目の前の彼には料理をするイメージは全く感じられなかったため、まさかこんな美味しいものが作れるとは考えていなかった。
会話のない静かな空間では乙姫の小さな声もよく聞こえ、その声に反応したのは、その美味しい料理を作った本人である青だった。
少しだけ目を丸くした彼の視線が乙姫に注がれる。
それに気づいた乙姫は、口の中にあるものを飲み込み、にこりと笑顔で口を開いた。
「料理、上手なん…ですね。」
向けられた笑顔から青は黙ったまま視線を逸らした。
乙姫は彼の態度から自分は嫌われていたんだった――と考え、それ以上は口を開かなかった。
しかし、青年の表情は怒りやましてや嫌悪などではなく、ただ苦渋が浮かべられていた。
もちろん乙姫はそんなことには気づいていない。