考えに耽(ふけ)っている乙姫を華紅夜は微笑みながら見つめていた。

視線に気づいた乙姫は慌てて初めましてと頭を下げた。

他の二人は静かにその様子を見ているだけだったが青年の眼だけは厳しく乙姫を捕らえていた。

青年の目線に気付いた虎太郎はそんなに警戒しなくても、と苦笑いを浮かべた。

そんな微妙な雰囲気が漂うなか、華紅夜は口を開いた。

「あなたのお母さんの名前を教えてもらえるかしら…。」

いきなり母親の名を聞かれ“何故?”と不思議に思うも素直に答える。

「そう…。やっぱり…」

「あの、なにが――。」

「織姫は私の娘なの……」


昔の織姫を思い出させる乙姫の容姿と首飾り―――それだけで華紅夜の中ではそうだろうと予測はできた。そして、名を聞いてそれは確信になった――目の前にいる少女が自分の娘とあの男の子どもだということが―――――。

華紅夜は悲しげな複雑な表情を浮かべた。

しかし、乙姫にはそんな変化にに気づく余裕などなく、困惑の色を浮かべていた。




静かに告げられた真実。
それに信じられないと思う反面、納得してしまっている自分もいる。

そう、それは噛み合わなかった歯車がかっちりと噛み合ったようなそんな感覚に似ている―――

上手く言葉が出なかった。

誰もが黙っている沈黙の中、口を開いたのは―――

「華紅夜様…!では、この娘が…!」

若干、声を荒げた寡黙だと思っていた青年。

何故か、動揺しているのは乙姫だけでは無いらしい。

そんな青年の動揺とは反対に少年はやっぱりという表情を浮かべて静かに次の言葉を待った。