「とりあえず中に入りましょう。」


しばらくの沈黙の後、老女がそう言った。

彼女は乙姫を見て“あなたも一緒に”と続けた。


威厳があり、でもどこか懐かしく感じる老女。

この女性は一体何者なんだろう―――と乙姫の中に新たな疑問が生まれた。




神社の境内の裏には一軒家が建っていた。

外観は極普通だ。
しかし、森に囲まれた中にあるそれは、少し都会を思い出させる大きさだった。





三人は家に上がって行き、乙姫も“お邪魔します”と一言告げて家に上がった。

中は見た目通りに広く、二階もあるため、それなりの部屋数があるだろうことが予測される。

乙姫が通されたのは玄関から近くにある広い居間だった。

真ん中には大きめの台があり、女性は元からあった座布団の上に座り、その向かいに寡黙な青年が座った。

乙姫はどうするべきか暫し逡巡し立ち尽くす。

「はい!乙姫ちゃんの座布団!」

虎太郎は部屋の隅に何枚か重ねられた座布団の中から自分の分と乙姫の分を取り、一枚を乙姫に差し出した。

乙姫は、ありがとうと一言お礼を言ってそれを受け取り、虎太郎の隣に座った。


「さて…神薙…乙姫さん……?初めまして。私は神薙 華紅夜と申します。」


自分と同じ苗字―――
神社の名前から予想はしていたが、なんだか不思議な気分だ。

それは、苗字が同じということもあるが、他にこの女性からは何か他人ではないものを感じる。

勿論、気のせいだと言ってしまえばそれでおしまいなのだが―――。