神薙神社と同等の大きさの屋敷の一室で一人の青年が呟いた。

「新しい…気」


日の光が室内の青年の整った顔を照らし出す。
青年は摎の次期頭首である、“摎 戒斗(しばり かいと)”


その表情は苦渋に満ち、眉根を寄せていた。






また“花嫁”候補が増えたのかと思うと彼の中にイライラが込み上げてきた。

己には必要ないといくら告げようと、聞く耳を持たない頑固な当代頭首や一族の者は花嫁を用意させる。

その一族の態度にも、寄ってくる花嫁候補の女達にもイライラが募るばかりだった。



考えを巡らせていた戒斗はふと気づく。


感じる気が今までのものとはどこか違うことに。

“何者だ…?”と、探るように、それほど離れていない森に視線を向ける。





何かが変わる―――漠然とそう思った。

根拠などはない。ただ、そんな“気”がしたのだ。




先程までの苛立ちもいつの間にか治まり、青年は今までに感じたことのない“気”にひとり、口元に妖しい笑みを浮かべたのだった。