「青ちゃんダメだよ。」

「っ…」

少年はさっきまでの可愛らしい雰囲気が嘘のように凛とした声で青年を制止した。

「紅ちゃんも華紅夜様のこと悪く言わないで。」

「……チッ…」

男は何も言い返さず舌打ちだけをした。

「…あと、その女の子は華紅夜様の所に連れて行くから。」

凛とした声はそのままで乙姫を見据えて言葉を紡ぐ。

その内容に驚いたのか男は目を見開き“あぁ!?”と素っ頓狂な声を出す。

「だって紅ちゃんその子のこと面倒見れるの?僕、責任感の無い大人って嫌いなんだよね。」

少年は凛とした声から一変して可愛らしい口調に戻る。
だが、浮かべる笑顔は先程になく黒い。
それに男の顔が若干引き攣るのを腕掴まれている乙姫はしっかりと見た。

少年のほうが優位に思えた。

「仕方ねぇ…。」

男が苦渋の顔で呟いたかと思うと、乙姫の腕を引き自分のほうへ引き寄せ、首筋に顔を埋めた。

「な、なな、何してるんですか!?」

ほとんど男に免疫が無い乙姫はパニック状態。顔に熱が集まるのが自分でよく分かる。

「紅ちゃん!?」
「鬼瀬…!?」

乙姫の声も他の二人の声も聞こえてないかのように男は離れようとしない。

首筋にチクッと痛みが走ったかと思うと首筋から体中が熱くなった。だが、一番熱いのは首筋だ。まるで火傷でもしたような――。

「何……を…!」

「お前は【花嫁】にする気だったが……気が変わった」

「花嫁…?」

考えを巡らせていると一陣の風が吹き抜けた。
風が強く目を瞑った。治まった頃に目を開くと男は居なかった。


しかし、男が最後に妖笑を浮かべていたことだけは分かった。