看護士をしている母は、働きながらずっと父の看病をしていた。


きっと職業柄、使われる薬などで父がもう助からない事を分かっていたと思う。


だけど、父も母も、ずっとずっとアタシに見せる顔は変わらなかった。


お父さんは日に日に弱り行く身体を隠そうとはしなかったし、毎日病院に通って来るアタシに、今までと同じように優しく強い父で居た。



「ナツコ、言いたい事はちゃんと言いなさい。お父さんに遠慮なんかするなよ。」



薬の副作用で苦しむ父を見る度に何も言えなくなった、アタシの悩みやなんかどうしようもなくくだらない事に思えて、治療に堪える父にそんな話をする事が負担になりそうでイヤだった。


だけどお父さんは、そんなアタシの頭を撫でると、



「お父さんはナツコが笑ったり泣いたり悩んだり迷ったり、そういう姿を見ているととても嬉しくなるんだ。あぁ、ナツコは一生懸命生きてるって思うと力が湧くよ。だから、何でも言いなさい。父さんはナツコが生きてるだけで幸せなんだ。」



そう言って笑った。


アタシの頭を撫でる手は痩せ細って骨張っていたけれど、その手の感触が、父が戦って生きている証拠だと思うと、とても誇らしかった。