「悪いなぁ。
もう少ししたら設楽もくるだろうからさぁ。」


「いいっすよ。
じゃあ、急ぎましょう。」



田中をもう一度睨むと、田中は飛ぶように客席へ向かった。



あれで慌ててなんか割らなきゃいいけど、と偉槻はため息をつく。



偉槻は店長と背中合わせに作業を開始した。



「おう、偉槻。」


「なんっすか?」


「お前、ギター欲しいって言ってたな?」



突然なんだ、と偉槻は訝った。



「エレキですか?
言いましたけど。」



なんすか?と訊くと、店長は得意げに笑った。



「知り合いがギター捨てるって言うから貰ったんだがな。
使い古しだがいるか?」


「いいんすか?」


「やる奴ぁお前しかいねぇよ。」



それじゃあとありがたく貰うことにした。



偉槻が高校最後のバイト代で買ったギターは今も大事に使っているが、もう一台欲しかった。



どうせ買うならと物の良いものを買おうとしてたのだが、やはり値が張る。



なくても困らないものなので、後回しになっていた。



思いがけないプレゼントに、偉槻の手はリズム良く動いた。