胡蝶蘭

「交代しろ。」


「は?」


「この太鼓、壊れてるから。」



プッと吹き出した慎吾は辺りを憚ることなく大笑いした。



「お前、なに自分が下手なの機械のせいにしてんだよ。」


「やかましい、退け。」


「はいはい、それで気が済むのなら?」



ふふんと馬鹿にして、慎吾は優雅に後退して見せる。



誓耶は鼻息も荒く、太鼓の前に移動する。



「よっしゃ、どっからでもかかってこい!」


「いやいやいや、かかって来ないから。
太鼓無生物だから。
むしろかかってくの君だから。」



半ば真剣に誓耶に首を振り、慎吾はゲームをスタートさせた。



今度は曲は慎吾の独断で選ばれる。



「もしお前がノルマ達成できたらアイス奢ってやるよ。」


「このうすら寒いのにか?
頭おかしいのかたこ焼き奢れ。」


「とことん我が儘な奴だな。」



言葉こそ非難しているものの、慎吾の口調は柔らかかった。



「いいだろう、たこ焼きな。」



慎吾は不敵に笑って、綺麗なフォームで太鼓を叩いた。