何気なく時間を見ると、偉槻が戻って来いと言い渡されていた時間より5分ちょっと早い。



「田中。」


「あ?」


「お前、嘘吐いたな。」



偉槻が時計を見上げているのに気付いた田中はぺろっと舌を出した。



「バレた?」


「…。」



チッと舌打ちし、厨房に戻る。



「店長、戻りました。」


「おお、偉槻。
やっぱり田中じゃ駄目だわ。」



田中が何かやらかしたのか、店長は不機嫌だった。



どっかのヤクザのような強面の店長が眉間にしわを寄せるとかなりの人相になる。



バイトも店員も尻尾を巻いて逃げ出す。



それは可愛がられていると周知の事実の偉槻でも同じで、正直相手はしたくない。



「これじゃ開店に間に合わねぇな。」


「なんかあったんすか?」



店長が一瞬田中を睨んでから、床にばら撒かれたてんぷらの材料をを指した。



「田中が電話しながら運んでてぶちまけやがったんだよ。」



あーあ。



てんぷらは店長が昼から衣をつけておいてすぐに揚げられるように準備しておく。



酒と一緒につままれるてんぷらは人気で、一時間でいつも売れるだけのてんぷらを仕込むのはほぼ不可能だ。



田中を睨むと、萎れていた。



ざまぁ。



「俺、やっときますから店長他の仕込みやっててください。」


「でも、お前…。」


「店の掃除は田中が残業でやりますって。」



なぁ?と睨むと、田中は何度も頷いた。



ここで上がるなんて言おうものなら…。


      ・・
文字通り、クビが飛ぶ。