胡蝶蘭

ホテル街を出て、一人でクリスマスのイルミネーションが施された街を歩く。



ジャケットに顔を埋め、偉槻は見るともなしに、両脇のショウウィンドーを眺めた。



クリスマスに必需品のツリーが特価で売り出され、おもちゃ屋にはクリスマスプレゼントを買う親が溢れかえっている。



この季節になるとお約束だ。



しかし、居酒屋で働いている偉槻にとってこの季節といえば、忘年会しか出てこない。



普段寄りつくことのないこういった商店街を歩くのは新鮮だった。



見たことのない、長いこと感じたことのないわくわくがそこにある。



たまにはこういうのもいいかもしれないな。



吹き抜けた風に身をすくめながら、偉槻はふっと笑った。



…ただ、人が多すぎるのがいただけない。



やっぱり俺は人混みには不向きな人間だな。



いいなと思ったものを帳消しし、偉槻はぶつかりそうになった肩をすっと引いた。



気分転換に遠回りでもしようかと思ったが、早々に帰ったほうがよさそうだ。



偉槻は路地を一本早く、右折した。