胡蝶蘭

要望にはお答え致しかねます、という偉槻の言葉に、彼女は唇を尖らせた。



「ねぇ、酔っ払いの寝言だと思ってない?
あたし、前からこの店使ってんだけど、ずっとあなたのこといいなって思ってたの。」



この店で飲み食いしてくれるのはありがたいが、目をつけていてもらってもなんら嬉しくはない。



「いいでしょ、あなた彼女いないでしょ。」


「だったらどうだっていうんですか。」



俺に女がいなかったらどうだっていうんだ。



お前を彼女にするほど飢えてはいない。



「あーん、服つめた。」



ここぞとばかりに濡れた部分を引っ張って見せる。



汚い。



ここまでするか。



「ね、どうよ大神クン。」


「……。」



黙ってさり気なく名札を隠す。



名前までチェックしてるのか。



怖いな。



同僚も呆れたように笑っているのがちらほら。



お前ら止めろよ。



客にぞんがいな態度はとれないだろう。



どうやら彼女目当ての男はいないらしい。



回収しにくる男どころか女もいやしない。



偉槻はどうしたものかと、思案を巡らせた。