胡蝶蘭

変な奴だったな。



最初はくそ生意気なガキだと思ったが、案外いい奴だった。



フッと偉槻は一人で笑う。



悲鳴が聞こえた。



バッと振り返る。



外からだ。



そう遠くない。



偉槻は上下ジャージだったが、構わずに飛び出した。



悲鳴が女らしいキャーというものじゃなかったことが不安にさせる。



まさか、あいつの…。



カンカンと音をたて、錆びた階段を一段飛ばしで駆けおりる。



角を曲がると、予想通り誓耶だった。



「当たんなよ…ッ。」



チッと舌打ちして走りだす。



「いやぁッ。」



従兄に掴まれた腕を振りほどこうとして、必死だ。



「放せよ!」


「うるさい。
迎えにきてやったんだ、おとなしくしろ!」


「頼んでないッ!」



いやだ、と暴れる誓耶に、従兄の男は唐突にキスした。



途端に誓耶は身体を硬直させる。



それをいいことに、男はなおも舌を絡めた。



偉槻は助けることも忘れ、唖然とその光景を眺めていた。



……従兄だろ? 



血が繋がってるんだろ。



「やめ…ッ。」



誓耶は弱々しく顔を背ける。



「何、珍しく乱暴じゃないね。
熱のせいかな?」



言って、男はコツンと額を合わせる。



誓耶はまた怯えたように首を竦めた。