胡蝶蘭

「ショートヘアで、Tシャツ短パンすがた、男っぽい奴。
まさにお前のことじゃーねか。
…これからどーすんだ?」


「わかんないって。
あたしだって訊きたい。」



本当に、途方に暮れているように見えた。



どう声をかけていいのかわからなかった。



生意気な口を利くくせに、途端に頼りなくなる。



責めていいのか、わからなかった。



「…おい、お前の名前は?
確か、チカヤとか言ってたけど。」


「そう、誓耶。
あんたは、イツキ?」


「ああ。
偉槻。」


「そう。
…よろしく。」



彼女、誓耶は、小さく頭を下げた。



この瞬間、偉槻の誓耶への不信感は消えていった。



「おい、お前、病院行くぞ。」


「え?」


「病院。
薬、いるだろ。」


「保険証ないよ。」



そうだった。



保険証だ。



偉槻は頭を抱えた。



「どうする?」


「だから、あたしいいって言ってんだろ。」



そうは言っても。



「それに、出てくよ。」


「はん?」


「ここ、出てく。
もう世話になるわけにはいかねーよ。」



誓耶はさっと立ち上がる。



待て。



偉槻は小さく呟いた。



「熱がまたあがってきたらどうするつもりだ。」


「大丈夫、知り合いん家泊めてもらう。」



他人の家に上がり込むのも気が引ける、と誓耶は言う。



「あたしが風邪引いたの、ホントにあんたのせいじゃないんだ。」



誓耶が真剣に偉槻を見つめる。



「世話してくれて、ありがと。」



ペコリと頭を下げると、誓耶はドアに向かって歩きだした。



「もう会うことないだろね。」


「ああ。」



バイバイと手を振る誓耶につられて、偉槻も手を振った。



バタンと閉まったドアが誓耶の笑顔を隠した。