胡蝶蘭

偉槻はイライラと言い放った。



「ここは俺の家だ、俺の許可なしに勝手な真似は許さない。」


「だから、そんな大事じゃないんだって。
中にいる女連れて帰るから。」


「独りで帰れ。」



偉槻は返事を待たず、素早くドアを閉めた。



一拍遅れた男は、鼻先でドアを閉められた。



鍵を閉めた偉槻は、つかつかと少女に歩み寄る。



「お前、知り合いか?」



声を抑えて問う。



少女は俯き気味に、手を口に当てている。



「答えろ。
俺も動きにくい。」


「従兄。」


「じゃあ、帰れよ。」


「嫌だ。」



悲痛な声。



何か事情があるらしいとは思っていたが、あいつも何かあるのか?



「でも、もうお前がここにいるのわかってるぞ。」


「どうしよう…。」



偉槻はひったくるようにして、ケータイを取り上げた。



こいつのせいで、居場所が知れた。



今時の機会は便利な反面悪用されると恐ろしい。



安全の為に搭載されているGPSも、彼女には仇となった。



「俺はどうすればいい?
知らんふりか?」


「わかんない。
あたし、わかんない。」



お前がわかんねえんなら俺はもっとだ。



「取り敢えず、隠れろ。
ケータイ拾ったことにしてやるから。」



腕を取ると、彼女は何度も頷いた。



偉槻のクローゼットに、彼女を押し込む。



窮屈だが、この際我慢してもらうほかない。