胡蝶蘭

と、玄関のインターホンが鳴った。



ピタリと少女は動きを止める。



「誰だ?
こんな時間に来る知り合いなんていないんだけどな。」



時計を見ると、8時だ。



偉槻の知り合いは熟睡中のはず。



偉槻は不審に思いながら、ドアの覗き穴に顔を寄せた。



見ると、知らない男。



歳は偉槻と同じくらいか。



無表情に立っている。



誰だ?



警戒しながら、ドアを半分開ける。



「はい?」



と、男はニッコリ笑って言った。



「うちの誓耶がお邪魔してます?」


「は?」



男は片手に持ったケータイを見せた。



液晶には地図が表示されている。



「ここにいるみたいなんですけど。」



偉槻はちらりと背後を見やった。



少女が怯えたように視線をあちこちに走らせている。



…あいつの知り合いか。



偉槻はため息をついて、男に向き直った。



「誓耶なんて知りませんけど。」


「嘘つかないで。
ここにいるって、GPSが教えてくれた。」


「そんなこと言われても。
俺は知らない。」


「何、君、GPSを信じないの?
科学的根拠があるんだから、入れてくれない?」



笑顔だが、強引だ。