胡蝶蘭

ガタンと、音がした。



見ると、彼女が立っている。



「何、してんの?」



彼女は身体が辛いはずなのに、つかつかと歩み寄ってケータイを取り上げた。



そして迷わず電話を切る。



そして怯えたようにケータイを放り投げた。



ガシャンと音がして、ケータイが棚に転がる。



「何言われた?」


「いや、何も…。」


「何か話したのか?」


「何も。
ただ、聞いてた。
タイミング逃して…。」


「ならいい。」



少女は火照った顔を覆った。



「おい、大丈夫か?」



支えると、彼女の身体から力が抜け。



声にならない悲鳴をあげ、偉槻は慌てて彼女を抱きとめる。



「さっきの、誰?」



布団まで連れて行き、問う。



「兄貴?」


「違う。
関係ねーだろ。」


「あるだろ。
家族にはちゃんと俺から謝るから。」


「いーよ。
家族じゃないし。」



何言ってんだ。



「親にはちゃんと詫びも入れるから。」



道理は通すぞ、と言うと、彼女は何故か馬鹿にしたように笑った。



「なんだ。」



少しむっとして言うと、彼女はまた言った。



「だから、必要ないって。
意味わかんない?」



偉槻は素直に首を振る。



「家族、いないって言ってんの。」


「…独り暮らしか?」


「ううん。
叔父さん夫婦に引き取られた。」