胡蝶蘭

ピリリリ、と機械音がした。



「なんだ?」



偉槻のケータイの着信音ではない。



だとすると…



彼女の以外有り得ない。



音のするほうに行くと、風呂場の前の棚に置きっぱなしになっている白いケータイが見えた。



ランプが点滅している。



…赤色に。



そっと取り上げると、液晶に“匡”と書かれていた。



…彼氏かなんかか?



取り敢えずとったほうがいいだろうと、偉槻はケータイを開いて通話ボタンを押した。



「何してんの?
今どこにいんの?」



通話が始まるなり、立て続けに男の質問。



偉槻は名乗るタイミングを逃して、黙りこくった。



「ねぇ、誓耶聞いてんの?」



…俺はどうすれば。



「怒るよ。
最中に逃げ出すし、昨日は帰ってこないし。
親父達を説得すんの、大変だったわけ。
今だって、二人が寝てる間に電話してんだけど。」



ペラペラとよく喋る…。



にしても、彼氏ではなさそうだな。



でも名前で登録してあるから兄ではないだろう。



だとすれば弟か?



でも声が大人だ。



偉槻が独り考えを巡らせている間にも、男は喋り続ける。



「ねぇ、言ってるよね、俺には逆らうなって。
最近休ませてあげてたの、わかってるよね?
俺、我慢してたんだけど。
なのに、逃げ出して俺を待たせるなんてお前何様?」



えらい口の利き方だな。



誰なんだこいつ。