胡蝶蘭








彼女が寝付いたのを見届けると、偉槻は部屋を出た。



自分のせいで風邪を引かせてしまった。



まさか、雨の中を傘もささずにやってくるなんて、思いもしなかった。



髪を掻きまわすようにして拭きながら、偉槻はテレビをつけた。



時刻は早朝5時。



偉槻にとっては夜中だ。



ほぼ昼夜逆転した生活を送る偉槻には、時間なんてものの感覚はない。



そういう生活をしていると、困る事になる。



そう、今みたく。



病院って、何時からだ?



まさか今開いているとはさすがに思っていない。



しかし、出来るだけ早く病院に連れて行かないと、大変だ。



彼女の親を怒らせる。



まぁ、今の時点でももうアウトだろうが。



にしても、帰りたくない、か。



偉槻は煙草に手を伸ばした。



火をつけて、くわえる。



どうしてあんなに家に帰るのを拒否したんだろう。



家に帰るくらいなら、見知らぬ男の家に泊まると。



それが危ないことなのは、あの歳になればわかっているはずなのに。



特別グレているようには見えなかった。



何か問題でもあるんだろうか?



…何を詮索しているんだ俺は。



「らしくねぇ。」



まったくだ。



偉槻は頭の中の雑念を振り払う為、煙草を吹かした。