胡蝶蘭

髪は濡れているし、首にはタオル。



風呂上りのはずなのに、どうしてこんなに手が冷たいんだろう。



苦しい意識の中、誓耶はそれが不思議だった。



「熱い、な。」



待ってろ、とイツキは部屋を出て行った。



途端に心細くなる。



誓耶は思わず声を漏らした。



少しして、彼が帰ってくる。



誓耶の胸に、えもいわれぬ安堵感が湧いた。



「ほら、熱測れよ。」



体温計を突き出され、誓耶は脇に挟む。



力が出ず、やけに動作がゆっくりだった。



それを彼はじっと待つ。



待つこと数分。



アラームが鳴ると、彼は無言で手を差し出した。



誓耶は体温計を取り出すと、手のひらに置く。



彼は暗闇で目を細め、隣の部屋からわずかに漏れてくる光で読み上げた。



「39.5℃。
ヤバイな…。」



頭がクラクラする。



今度は身体が熱くなってきた。



腕を布団から出す。



「おい、身体冷やすな。」


「暑い…。」



身体が、熱い。



イツキはまた冷ややかな手で、誓耶の顔を冷やす。



誓耶は無意識にイツキの手を握った。