胡蝶蘭

偉槻達が交差点を渡ろうとしたときだった。



すべてがスローモーションに見えた。



車が、ブレーキを軋ませながら、突っ込んできた。



それに気づいた偉槻が腰を落として、力いっぱい茉理子を突き飛ばす。



その拍子に、サングラスはずれてコンクリートに転げ落ちた。



心臓が、ぎゅっと締め付けられる。



耳鳴りがした。



偉槻は歯を食いしばって車を見据えた。



駄目だよ、偉槻!



逃げて!



まだ遅くない、身体を避けて!



誓耶は思わず耳を塞いだ。



しかし、直後に鈍い衝突音。



そして、偉槻の身体は宙に浮いた。



苦しげに目を閉じた偉槻から目が離せない。



どさり、と偉槻が道路に倒れた。



嘘だ…。



誓耶は唖然と、その光景を見つめていた。



何が起こった?



偉槻が、撥ねられた?



嘘だろ、そんな。