胡蝶蘭

「偉槻、行きましょ。」



イライラと、茉理子が偉槻の腕を引っ張る。



しかし、偉槻は3歩目を踏み出す。



「最近、夢は見ないのか?
何も、困ったことないか?」



誓耶は答えの代わりに、思い切り偉槻を睨みつけた。



夢は、しょっちゅう見るよ。



あの怖い夢以外にも、偉槻があたしの前からいなくなる夢を何度も。



困ったこと?



偉槻が頭から出ていってくれないこと。



あたしをずっと苦しめることだよ。



「偉槻!」



ヒステリックに、茉理子が叫ぶ。



やっと偉槻は茉理子に注意を移した。



「行きましょうって!」



既に茉理子は偉槻を強引に引っ張って歩き出していた。



偉槻は最後にちらりと誓耶を振り返ってから歩き出した。



その眉間には、しわが寄っていた。



…偉槻が困ったときに出来る、あのしわ。



誓耶2人が歩いていくのをずっと目で追った。



偉槻の背中は前と変わらず飄々としていたけど、どこか寂しげだった。



…偉槻、お前こそ大丈夫なのかよ。



どっか変だぞ。