胡蝶蘭

誓耶は鼓動がどんどんと早くなっていくのを感じた。



「元気か?」



かろうじて、頷くことができた。



そうか、と偉槻は少し笑む。



…どうして笑ったの?



胸が、痛む。



どうして、あたしをあんなふうに突っ放しておきながら、そんな安心した笑みを浮かべるの、気にかけた顔をするの?



ねぇ、どうして?



…少し、嬉しくって泣きそうだよ。



「お前、ちゃんと食ってるか?」



偉槻が一歩、誓耶に近づいた。



サングラスから、偉槻の目が透けて見えた。



その目から、視線をそらす。



答えない誓耶に、偉槻は上ずった声で続ける。



「ちゃんとしっかり食わないと身体に障るぞ。
見るからに痩せてるから、ゼリーやプリンでもいいから、ちゃんと食え。」



どうしたの偉槻、と茉理子は少し不機嫌な声で抗議した。



しかし、偉槻はそれを完璧に無視して、さらにもう一歩、誓耶に近づいた。



「髪、伸びたな。」



どうでもいいこと。



どうでもいい誓耶の変化を捕まえて、偉槻は話し続ける。



「伸ばす気になったのか?」



別に、そんなことはないけど。



…前に偉槻があたしの髪撫でるの好きなんだって気付いてから、伸ばすのもいいかなって思ったりはしたけど。