胡蝶蘭

ちらりと、茉理子が誓耶を見、はたと立ち止った。



「あなた…。」



偉槻は不審そうに立ち止る。



そして茉理子の視線を追って、動きを止めた。



形のいい唇が、微かに動いた。



「…久し振りね。」



茉理子が嗤った。



お元気かしら、と嫌味っぽく誓耶に声をかける。



誓耶は返事をすることも忘れて、偉槻を見つめた。



表情が、見えない。



先程から微動だにしない偉槻の感情を読み取りたかった。



ねぇ、偉槻。



随分とご無沙汰だね。



元気なの?



なんか顔色悪いよ?



あたしのことは、まだ嫌いなの?



もう、忘れてた?



茉理子と付き合ってるの?



いくら心の中で声をかけても、もちろん返事なんてない。



偉槻は、ゆっくりと立ち位置を変えた。



「久し振りだな。」



久々に聞く、偉槻の生声。