胡蝶蘭

ただ、偉槻の声が聞きたい…。



誓耶を優しく呼ぶ声が蘇る。



しっとりと、心に染み入るかのような、優しい声。



誓耶は立ち止って目を閉じた。



偉槻の声が、聞こえた気がした。



あぁ、あたし完全に頭イカれてんな。



偉槻の声が聞こえるわけないだろ。



そんな偶然、有り得な…。



誓耶はバッと目を見開いた。



いや、嘘なんかじゃない。



偉槻の声が確かに聞こえた。



本物だ…。



…目の前に、いる。



誓耶は、目を見開いたまま、蛇に睨まれたかのように動けなくなった。



だって、偉槻の腕に絡みついているのは…茉理子だった。



偉槻はサングラスをしているので表情が窺えない。



しかし、茉理子は幸せそうな笑顔を浮かべている。



…どういうこと?



2人は付き合ってんの?



「偉槻…。」



心臓が押しつぶされそうだよ…。