胡蝶蘭

珍しく、健が苛立った顔を見せる。



「お前、何を血迷ったわけ?」


「正気だよ。」


「嘘つけ。
俺をだませるとでも思ってんのかよ。」



話したくない。



話せない。



偉槻は無言で席を立った。



「おい偉槻!」



健が叫ぶ声を無視して歩き出す。



「おお、健!」



途中、田中と行き会った。



「お前、最近俺抜きでギター弾きやがって…。」


「どけ田中。」


「あい…。」



はしゃいだ田中を容赦なく突き飛ばし、健が追いかけてくる。



偉槻は厨房に逃げ込んだ。



「偉槻、どうした?」



運悪く、店長に見つかってしまった。



「どうもしません。」


「嘘つくな。
健が叫んでんのが聞こえたぞ。
奴と喧嘩なんて、いつぶりだ?」


「喧嘩じゃないっす。
なんでもないですから。」



頑なに拒否する偉槻に踏み込んでも無駄だと感じたらしい。



店長はもう何も言わなかった。