カラン、と、ドアの開く音がした。
偉槻は反射的に顔を上げる。
入ってきた人物が誰かを認識した途端、身体の中で何かが吠えた。
何も言わずに歩き出した偉槻の背中から、太い腕が回される。
「偉槻、偉槻、堪えろ。」
「店長…!」
「命令だ、偉槻。
堪えろ。」
考えは見透かされていたらしい。
運悪く_良く?_フロアに居合わせた店長が偉槻を羽交い絞めたまま、奥に引きずって行った。
「ったく、お前はすぐに血が上る。」
店長には言われたくない。
偉槻はイライラの持っていき場を失って、不機嫌に息を吐いた。
「お前の気持ちはわかるつもりだ。」
「はい。」
「でも、こんなとこで騒ぎなんか起こしたらそれこそえらいことだ。」
わかってるだろうがな、と店長はバンッと偉槻の背中を叩く。」
「すいませんでした。」
「…お前、今日はもう上がるか?」
「いえ、大丈夫です。」
「ホントだろうな?」
「はい。」
偉槻は床を睨んだまま頷いた。


