偉槻は休憩、仮眠を挟んで早朝3時まで働いた。
田中は10時過ぎに上がっていき、偉槻としてはホッとした。
忙しい時間帯に返って邪魔なせいもある。
そして、今。
店の後片付けを終え、偉槻は座敷に移動して眠っている少女の前で立っている。
起こすべきか、寝かせておくべきか。
よっぽど身体が疲れていたのか、規則的な寝息を立て、彼女は眠り続けている。
偉槻は寝かせておく方をとった。
「偉槻。」
眠っている彼女を気遣ってか、いつもよりボリュームをしぼった店長の声が偉槻を呼んだ。
「嬢ちゃんはどうだ?」
「寝てます。
俺が上がるまで、このまま寝かせてやっていいっすかね?」
「おう。
起こさねぇようにしろよ。」
はい、と返事をして、偉槻は片付けを始めた。
皿のカチカチとぶつかる音がこの静けさの中、余計に大きく聞こえる。
偉槻は今までにないくらい、神経を尖らせた。
俺、なんでこんなに気ぃ遣ってんだ?
ふと、思う。
別にそこまでしてやる義理もないのに。
「らしくねぇ。」
独り呟いて独り笑う。
それもまた大きく聞こえる。
店長、少女、そして偉槻しかいない店内はとてつもなく広く感じた。
「偉槻、その子どうする?」
片付け終わった偉槻に、店長が声をかける。
偉槻はガリガリと頭を掻いた。
「どうしたらいいっすかね。」
困った。
こういう場合、俺はどうすればいい?


