偉槻は忙しく働きながら、ちらりと少女を見やった。
さっきと変わらず、タオルを頭にかけ、店長に借りた毛布に身体をくるんでいる。
従業員用のロッカー近くのベンチに腰掛け、ゆっくりと身体を揺らしていた。
「偉槻、彼女の名前何?」
入れ代わりに料理を運びにきた田中は、すれ違い際に偉槻に耳打ちした。
偉槻は心の中で舌打ちする。
まだ諦めてなかったのか。
歳を訊くと17歳だと言っていた。
未成年だ。
いくら田中の許容範囲が広いとはいえ、いくらなんでも未成年者にまで構うとは思わなかった。
田中に言わせると「5つやそこら、なんでもねぇよ。」らしいが。
偉槻にしてみれば、二十歳の壁は大きい。
友人として年下を誑かす様子を見たくはなかったので、偉槻は無言でかわしていた。
「なぁ、頼むよぉ。」
「ッるせー。」
いつまで言い続ける気だ。
すれ違う度に声をかけられ、苛立ちが募る。
あの少女を連れてきた偉槻本人さえ名前すらわかっていないのに。
積極的に近づこうとしている田中が鬱陶しく思えた。
「店長、田中がうるさいんですけど。」
はいよ、と勢いよく料理を手渡してきた店長に告げ口すると、たちまち怒声が響く。
「田中ぁ!
ちょっとこっち来い!」
「はいッ!」
懲りない奴。
何度店長に叱られようと、何度でも女関係でトラブルを起こす。
前に一度、他人の彼女に手を出して店に乗り込んで来られたことがあった。
またいつそんな揉め事を起こすやら。
その時は勿論、偉槻は一切助ける気はない。


