「いい。
自分で帰る。」


「送るつってんだろ。」


「いいって言ってんじゃん。」



言いながら、彼女は立ち上がる。



そのまま店を出ていきそうだったので、偉槻は慌てて引き止めた。



「馬鹿が!」



呆気なく、少女は偉槻の腕の中。



実はあまりに簡単に倒れるから、慌てた偉槻だった。



「嬢ちゃん、帰れねぇのか?」



店長は少女の出で立ちを見て、優しく声をかけた。



彼女はぎこちなく笑う。



「何かあったのかい?
おじさんも昔はやんちゃやってたから、家出なら座敷に泊めてあげるよ?」



彼女は、首を振った。



「家出じゃないよ。」


「じゃ、なんだ?」



少女は偉槻を振り返る。



振り返っただけで、何も言わなかった。



「帰れない理由ってなんだ?」



沈黙。



いつもならうるさい田中も、何かを感じとったのか、静かだった。



「世話になんな。」



いつになく頼もしい店長の声に、拒否を許さない優しさがあった。