「ほら、タオル。」



言いながら、バサッと彼女の頭にタオルを放った。



ゆっくりと彼女はタオルをつかむ。



「それと、ほら。」



コトンと皿をカウンターに置くと、その音に反応して彼女はタオルの隙間から顔を覗かせた。



「店長が食べさせてやれって。」


「…ありがと。」



声が小さい。



どうしていきなりおとなしくなったんだ?



「田中ぁ!」


「はいッ!」



厨房から店長が怒鳴った。



田中はバネ仕掛けの人形のようにピンと背中を伸ばす。



「そんなとこでサボってないでこっち手伝え!」


「はい!
ほら偉槻、行くぞ。」



田中は偉槻を呼ぶが、そこにまた店長の怒声が響く。



「偉槻はいいんだよ!
彼女の面倒みとけ。」


「ちぇっ、俺がその役やりたいよ。」



唇を尖らせ、田中は奥に引っ込んだ。



やっと静かになった。



偉槻はふうっとため息をつく。



「ほら、冷めないうちに食え。
せっかく店長が作ってくれたんだ。」


「うん。」



そうは言いつつも、彼女は身動き一つせず、田中が消えたほうを見ている。



「どうした?」



答えない。



「お前、電話とは別人だな。」



嫌味を言っても、反応しない。



「どうしたんだよ。」



近づくと、彼女は静かに後退る。



「おい?」



くしゅっ、と彼女がくしゃみをした。



「おい、風邪でも引いたか?」 


彼女は大丈夫、と首を振るが、偉槻は無理矢理に手を握った。



「…微妙だな。」