胡蝶蘭

「ねぇ、いいの?」


「何が。」


「あたし、迷惑じゃない?」



本当に申し訳なさそうに、首を縮めている。



電話では生意気だったのに、どうしたんだ。



「いいって何回言わせる気だ?
タオル持ってくるから待ってろ。」



いいな、と念を押すと、彼女は不安そうな顔のまま頷いた。



偉槻は足早に奥に向かう。



「店長、ちょっとタオル借りていいっすか?」


「おぉ、いいけど。
どうした?」


「人を雨宿りさせてて。
ちょっと俺、抜けていいっすか?」



行ってこい、と店長はガサガサやり出した。



「持ってけ。」



何かと思えば、皿にのせた天むすだ。



「いいんすか?」


「冷えてるだろ。
何なら味噌汁か何かもつけるか?」



味噌汁はさすがに断り、ありがたく天むすだけ頂いた。



足早に待たせた彼女のもとに戻る。



喜ぶんだろうな、と思うと、余計に足が速くなった。



店の中に戻ると、田中の声が耳に飛び込んできた。



「ねぇ、いくつ?
名前は?」



が、彼女の答える声は聞こえない。



向かうと、つっ立ったままの彼女と、顔を覗き込むようにしている田中が見えた。



「おい、何してんだ。」


「偉槻〜。
なんか、可愛い子いる。」



ルンルンの田中は彼女を狙う気が満々だ。



「ケータイ拾った女。」


「あ、この子が?
ご苦労だったね。」



田中が頭に手を置こうとすると、彼女はビクッとして身体を縮めた。



田中は呆気にとられている。



「ど、どしたの?
俺、ただ頭撫でようとしただけなんだけど…。」



女慣れをしている田中もこの反応への対処の仕方がわからないようだ。



ただひたすら優しく声をかけている。



彼女はといえば、濡れた前髪の下から、警戒した目を覗かせて押し黙っている。



「田中、どけ。」


「はい。」



困っていたためか素直に道を空ける。