「何?」


「お前、濡れてる。」


「だから汚さないように早く出てこうとしてんでしょ。
何、拭かなきゃダメ?」



そうじゃなくて。



なんなんだこいつ。



「入ってけよ。」


「いいよ。
あたしが入るような店じゃないだろ。」


「居酒屋じゃねぇかよ。」



ファミレスとかじゃないだろ、と利かん気に少女は偉槻を睨む。



「タオルくらいやる。」


「何、電話と違って優しいじゃん。」



そうは言うものの、声も顔も感心してない。



むしろ、馬鹿にしている。



「お前、なんなわけ?
さっきから人の好意無視しようとしやがって。」


「…ホントに好意なわけ?」



彼女は探るように眉を潜めた。



嘘つく利点ないだろ。



おかしな奴だな。



偉槻は煙草を道路に投げ捨て、ドアを開けて見せた。



「入れよ。」


「店、いいの?」



偉槻は黙ってドア脇においてあるブラックボードを指す。



「ああ、開店5時なんだ。」


「入らないと閉めるぞ。」



急かすと、彼女は恐々といった感じで中に入った。



律儀にマットで足を拭く。



見かけと違って案外礼儀正しいんだなと、偉槻は密かに彼女の印象を書き換えた。