胡蝶蘭

「待て待て、今なんつった?」


「だから、彼氏出来た。」


「マジでか。」



いやー、と慎吾は反り返って頭を掻く。



「そうか。
驚いたな。」



好きな奴出来たの、と慎吾が優しく問う。



誓耶は顔を真っ赤にしながら頷いた。



「よかったじゃん。
一歩、前進したな。」


「うん。」


「で、どんな奴?
駄目駄目な男なら俺が許さねーぞ。」


「あ、それなら大丈夫。」



あんたが信頼してる奴だから。



誰、と身を乗り出す慎吾から顔を背け、誓耶はぼそっと言った。



「偉槻。」



慎吾、処理中。



ゆっくりと首を傾げて、慎吾は口の中で名前をつぶやく。



たっぷりと時間を置いてから、慎吾は肺いっぱいに空気を吸い込んだ。



「はいストップ!」



バッと慎吾の眼前に手を突き出し待ったをかける。



息を吸った恰好のまま、慎吾はフリーズした。



「そのまま息吐き出してみ。」



言われるがまま、慎吾はゆっくりと息を吐く。



「おっけ。」



悠然と頷いてみせると、慎吾は勢いよくテーブルに突っ伏した。