胡蝶蘭




やってしまった…。



日の差しこむ寝室で、偉槻は頭を抱える。



羽毛布団と肌が擦れて、乾いた音を立てた。



隣では、誓耶が横たわっている。



ぴくりともしない。



耳を澄まして、やっと聞こえるくらいの微かな寝息を立てながら。



サラサラとした黒髪が、誓耶の頬に、布団に、広がっている。



偉槻は呻いて、身体の向きを変えて誓耶を見つめる。



布団から出た、細い腕が寒々しい。



偉槻は誓耶の腕を布団に仕舞うと、自分も首まで布団にもぐった。



今、何時なんだろう。



朝がきているのは、人々が活発に動き出しているのは、確かだ。



…誓耶に学校をさぼらせてしまった。



平日だというのをすっかり忘れていた。



偉槻のような生活をしていると、曜日感覚などなくなってしまう。



駄目な大人だ。



…震える高校生をベッドに押し倒して、家に帰さず、学校も行かせず。



思い返せば思い返すほど頭が痛くなってきた。



とはいえ、後悔を微塵もしていないのだから、自分の図太さには恐れ入る。



偉槻は無声音で嗤った。