胡蝶蘭




帰らせない。



今日は、帰らせない。



偉槻は震える誓耶をぎゅっと抱きしめた。



どさり、と柔らかい音がして、誓耶の背中が布団につく。



偉槻はゆっくりと誓耶に口づけた。



待ちわびた、瞬間。



顔を離すと、誓耶は目をつむっていた。



頬をそっとなでると、瞼を震わせながら開眼する。



「怖いか?」


「ちょっと…。
こういうの、嫌な思い出しかないから…。」



確かに。



…俺がその固定観念を変えてやる。



「力、抜け。」


「…そうしようとしてるんだけど、出来ない。」


「…。
ま、いいけど。」



額に唇を押し当てる。



誓耶が震える手で偉槻の服を掴んだ。



しんとした部屋に、誓耶の震える息だけが聞こえる。



偉槻はさらに、誓耶に口づけた。



ゆっくり、優しく。



誓耶は、今までみたことのないような緊張した顔を見せる。



偉槻の頬は緩みっぱなしだ。



「偉槻、好き…。」



何よりもこの言葉は偉槻の心を幸せで満たした。