胡蝶蘭

中に入ると、偉槻の気持ちは少し軽くなった。



誓耶はさっさと定位置に座る。



偉槻もいつもの向いに腰を下ろした。



「で、話って?」



誓耶は偉槻と目を合わそうとしない。



それでも偉槻は誓耶を見つめて口を開いた。



「茉理子のことだが。」



気のせいか、誓耶が少し顔を歪めた。



「付き合ってない。」


「嘘だ、あいつは…。」


「あの女を信じるのか、俺を信じるのかどっちだ。」



誓耶は気まずそうに口をつぐむ。



何も言わないので、偉槻は話を続けた。



店で会ったこと、絡まれたこと、…そして、そのあとのこと。



誓耶は俯いている。



表情が髪の影になって見えない。



誓耶の表情が気になったが、偉槻は勇気を奮い立たせて話し続けた。



「…軽蔑したか?」



部屋は静まり返っている。



物音すらしない。



偉槻は自分の心臓の音が異様に大きく聞こえた。