胡蝶蘭

誓耶は怯えて少し身体を縮める。



「取り敢えず、来い。」



有無を言わさず、手を引っ張る。



最初は抵抗していた誓耶だったが、人目もある手前、おとなしくついてきた。



ある程度人がいなくなると、誓耶は遠慮がちに声をかけてきた。



「どこ行くんだよ。」


「俺のアパート。」


「…そこらへんの喫茶店でいいじゃん。」


「駄目だ。」



意地でも、連れ帰ってやる。



人目を気にせず、話がしたい。



誓耶、ついてきてくれ。



頼む…。



「偉槻、いつまで腕つかんでる気?」


「着くまで。」



放したくなかった。



放せば、そこで誓耶がいなくなる気がしていた。



後ろからため息が聞こえる。



呆れられてもいい。



俺の気休めに付き合ってくれ。



無言のまま帰路を辿り、しばらくしてアパートに到着した。